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仙台高等裁判所 昭和30年(ラ)22号 決定

抗告人 山川小三(仮名)

主文

原審判を取消す

抗告人の名「小三」を「省三」と変更することを許可する。

理由

本件抗告理由の要旨は、抗告人は昭和十二、三年頃から「小三」の名を殆んど使用せず「省三」の通名を用い、爾来公私全般にわたりこれを使用し一貫して今日に至つている。このように「省三」の名が通用化されているのに戸籍名が「小三」となつているため甚しく不合理、不便を感じていることから戸籍名も「省三」と改めたく許可申立に及ぶ、というのである。

本件記録に徴すると、抗告人は昭和十二、三年頃小学五、六年生当時、戸籍上の「小三」を「こぞう」と呼ばれることがあつたが、抗告人はこれを嫌いその頃から「省三」の名を用いこれを「しようぞう」と呼称し、その後は殆んど公私にわたり一貫して右通名を用い、公文書上戸籍名を明確に表示する必要がある場合など已むを得ない場合のほか「小三」の名を使用せず、右「省三」の名は公私の生活において殆んど通用化されていること、のみならず「小三」の音は、軽蔑の意味でも用いられる「小僧」と同じ音で呼ばれることのあることが考えられるばかりでなく、「小三」の文字に特別の意義があるものとも解されず、むしろ「小三」を「しようぞう」と呼称するなら「省三」の文字を用いる方が発音上も誤を生ずる虞なく且つ字義上からも適切であることが認められる。右のような事情は戸籍法第百七条にいわゆる名を変更するについての正当な事由に該当するものと認むべきであるから、抗告人の前示申立は相当でこれを許可すべきものといわなければならない。

よつて抗告人の申立を却下した原審判は不当であるからこれを取消し、抗告人の名の変更を許可すべきものとし特別家事審判規則第一条、家事審判規則第十九条第二項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 村木達夫 裁判官 畠沢喜一 裁判官 上野正秋)

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